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二宮金次郎はなぜ薪を背負っているのか?—人口減少社会の成長戦略 (文春文庫 い 17-14) 猪瀬 直樹 (著) を読んだ。
これは凄い。この値段、この薄さの中に実に濃密な情報が詰まっている。
江戸時代の文書からの引用もあって、私には必ずしも読みやすくない箇所もあったが、得るものの多い本だ。
二宮金次郎は銅像になっている少年時代ばかりの印象が強いが、実は大人になってからの活躍にこそ、21世紀に見習うべき内容がちりばめられている。
彼が生きた江戸の後期は、長期低成長時代であり、今の日本といろいろな点でダブる。
既得権階級から警戒され、全国展開できなかったが、狭い地域では村の再生に成功している。その実例を詳細にひもとき、それを現代に生かす方向性を見いだそうというのが本書の趣旨だ。
過度に分業化が進んでしまった現代からは想像できなかったが、実は江戸時代のお百姓たちは、生産するだけでなかったのだ。米は税の対象になるが、それ以外の作物は自由に販売できたので、その商売センスもが求められていたのには驚いた。
良いものを作るだけでなく、どのタイミングでどの地方へ売れば良いかまで考えて行動する農家は収入も多かったらしい。
二宮金次郎の特筆されるべき点の1つに、出費額の上限を設定しておき、余剰のお金をファンドとして運用するというものがあった。「絶対必要だ!」と主張して、
無制限に出費を要求して借金のツケを子孫へ回し続ける現代の政治家に爪の垢を飲ませてやりたい。

また、現代産業の大きな問題点の1つが、労働者の需要と供給のアンバランスにある。
特に建設業界には、労働者が余っている。これを政策的に別の産業(著者は、第7章で「カギは農業にあり」といっている)に振り向ける手もあろうが、窮地にある中小の建設業者の中には、自ら、社員を解雇せずに、農業に従事させるという道も模索しているところも増えてきた。
これは日本の食料自給率向上という点でも、推奨される方向である。
ただし、現代は国境を超えて取引される時代なので、国際的に高く売れるものを目指さないといけないが。差別化できないと海外の安い品物と価格競争になるだけだ。

今月は、心に残る本に多く出会えたのが嬉しい。
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